経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか
社会の知恵

軍隊は、自国民と外国人の どちらをたくさん殺してきたか?

……驚くことがあります。それは、国家は誰を殺しているかということです。もしも殺されているのがほとんど外国人であるとしたら、これが恐ろしい統計であるとしても、とにかく国家は自分の国民との最初の約束を守ろうとしていることが読み取れるわけです。それぞれの国家が敵国の兵隊を殺しているのであれば、そう言えるでしょう。

ところが、そうではない。殺されているのは、外国人よりも自国民のほうが圧倒的に多いのです。ランメル(R.J.Rummel, “Death by Government”, 1994)によれば、先の国家によって殺された約二億人のうち、129,547,000、約1億3000万人が自国民だそうです。

もちろん統計はここでもまた、600万人のユダヤ人とか、スターリンが殺したという農民(クラーク)によって大きな影響を受けるのですが、でも、よく考えてみれば今の世界にも、自分の国民しか殺さない軍隊を持っている国家はたくさんあります。フィリピンの軍隊は第二次世界大戦以来、外国人と戦ったことは一度もないけれども、フィリピン人をたくさん殺している。インドネシア政府は「東ティモールの人たちはインドネシア人だ」と主張しながら殺していました。

これはあるメキシコ人に言われたことですけれども、メキシコはなぜ軍隊を持っているか? 誰と戦争するのか? 南隣の小国グアテマラと戦争するとは誰も予測していないし、北の国境の向こうにはアメリカ合衆国があるが、アメリカ合衆国と戦争すれば、メキシコの軍隊は何の役にも立たない、と彼は言いました。ではなぜ軍隊があるのか。メキシコ人自身と戦争しているわけです。たとえば最近では南部のチアパス州での先住民との紛争が大きく新聞に出ています。

日本の他にもう一つ平和憲法を持っている国がコスタ・リカだというのは有名です。コスタ・リカの憲法も同じように軍事力を持たないと規定しているのですが、その成立の事情は日本の平和憲法とまったく違う。コスタ・リカには誰かを侵略して、戦争に負けて反省したという歴史がないのです。小さな国だから隣国を侵略するはずがない。だから中南米の政治文化の文脈のなかでそれを読み取らなくてはなりません。つまり、軍部を作ればすぐに軍事クーデタを起こし独裁政権を作る。中南米の歴史はその繰り返しでした。だからコスタ・リカの人たちは軍部を作らないと決心した。作ったら国民をいじめるに決まっている。政府の国民に対する暴力を制限するために平和憲法を作ったのです。

二十世紀は戦争の世紀だったけれども、もっとも多く人が殺された戦争は、国家間の戦争ではなく、国家と自国民のあいだの長い戦争だったのです。

そして、国家が殺したという二億人のほとんどが戦闘員ではない。今でも同じことですが、国家間の戦争があったとして、軍人が殺される数よりも、非戦闘員の死者の数のほうが必ず多くなるわけです。考えてみれば当たり前です。軍隊は殺しにくいからです。武器を持ってるし、訓練を受けていて、身の守り方も分かっているわけで、なかなか殺せない。それに対して非戦闘員は武器も持ってないし、自衛の訓練も受けていないから身の守り方が分からない。戦場でやたらに走り回ったりして、とても殺しやすい。

ランメルはデモサイド(democide)という言葉を作りました。それは政府がわざと非武装の人々を殺すという意味です。デモサイドは戦争で敵の軍隊を殺すという、国際法で許された「正当な暴力」と違って、政府による明らかな殺人です。和訳として「民殺」が当たるかもしれません。ランメルによると、戦争で「正当に」殺された兵士の数よりも、民殺で殺された数が圧倒的に多い。国家に殺された二億人のうち、「正当な」戦死は34,021,000人ですが、国家による民殺は169,198,000人、約五倍にものぼります。

もう一つ、ランメルが統計で実証しているのが、政府が権威主義的であればあるほど、人を殺す数、特に民殺が多くなるということです。彼はあらゆる政府を全体主義、権威主義そして代表民主主義の三つのカテゴリーに分けています。そうすると次のような内訳になります。

民殺      戦争
代表民主主義  2,028,000   4,370,000
権威主義    28,676,000   15,298,000
全体主義    137,977,000   14,354,000
その他(テロなど)  518,000

彼はそれによって民主主義を弁護しようとしているわけです。確かにそれは民主化運動を進める大義名分になるとは思います。けれども、忘れてはいけないのは、原子爆弾を落とした国は代表民主主義の国だけだということです。

(『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』より抜粋)

書籍データ

経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか
概要本書では、経済の問題だけではなく、戦争と平和、安全保障、日本国憲法、環境危機、民主主義などが、多岐にわたって論じられている。だとするとなぜ、『経済成長がなければ…』なのか?それは、経済発展を目指すことこそが現実的であり、それ以外は理想論にすぎないという考え方にこそ、本書で扱った多くの問題の核心があるからである。
タイトル経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか
著者名C. ダグラス・ラミス
出版社平凡社
刊行日2004年9月
判型B6変
頁数246
定価900円+税
ISBN4582765130