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ハーバードでも“育児と介護”は男性の問題になりつつある

社会では育児や介護の担い手のほとんどが女性だ。母親は父親の倍の時間を育児に使っている。高齢者の介護を担うのは、たいてい40代の女性だ。平均で週に3時間を母親の世話に使っている。

育児や介護の社会的なプレッシャーを受けるのもまた、女性だ。そして男性に比べて、女性は親として完璧であることも求められる。この21世紀のアメリカでも、女性が仕事よりも育児を上に置かないと、批判的な目を向けられる。テキサス州選出の上院議員だったウェンディ・デイビスも、どこでどんな風に子供を育てたかについて、重箱の隅をつつくように取りざたされた。ウェンディがテキサスの夫に子供を任せてハーバード・ロースクールに行ったことは、自分勝手の極みだと批判された。

男性は普通、そこまで重箱の隅をつつかれることはない。たとえば、オバマ大統領の首席補佐官だったラーム・エマニュエルはワシントンに子供を残してシカゴ市長選に立候補したが、それを批判した人はひとりもいなかった。

ふたりの子供を育てながら研修医生活を送っている女性からメールをもらった。母親業というのは、なによりも難しいと感じていると言う。それは罪の意識があるからだ。

本当にいろいろな面でプレッシャーを感じます。完璧な母親にならなくちゃいけないと思い(自分で赤ちゃんの面倒を見て、ベビーフードもいちから自分で作って)、医師としても完璧じゃないとだめだ(最新の論文を読んで、重要な研究に参加して、論文を発表して)と思ってしまいます。フェローシップを始めたとき、子供はまだ生まれて2か月余りでした。

アトランティック誌に載った私の記事(「女性は仕事と家庭を両立できない!?」クーリエジャポンより)を読んで、手紙を書いたという。「週に80時間も働いて、当直もして、それでも仕事に100パーセント打ち込んでないような気がして、それなのに母親としても中途半端で、後ろめたい思いでいっぱいでした」。結局彼女はパートタイムの仕事に移り、夜は子供を寝かしつけられる時間に家にいることにした。(中略)

それでも、育児の問題はゆっくりと、だが確実に、男性の問題にもなりつつある。

ウォートンスクールでは、1992年と2012年の卒業生の社会に対する期待と姿勢を比べた。それによると、20年前よりも今の若い女性の方が、仕事と家庭を両立させるストレスが大きいと思っていた。また特筆すべきことに、男性の43パーセントが、競争の厳しいキャリアを追いかけると「夫やパートナーとして妻に寄り添うことが難しくなる」と答えている。1992年にそう答えた男性は33パーセントだった。

2014年にハーバード・ビジネススクールが6500人を超える過去数十年の卒業生を対象に行った調査でも、男性の考え方に大きな転換が見られた。ミレニアル世代の男性の3分の1は子育ての責任を配偶者と半々に担いたいと答えていた。X世代の男性でそう答えたのは22パーセント、ベビーブーマーの男性ではわずか16パーセントだ。

考えてみてほしい。この全米屈指の難関校に集まってくるのは、けた違いに負けず嫌いの男性たちだ。その半分から3分の1が、家族との生活が自分の未来の成功と人生に大きく影響すると言っていた。スタンフォード・ビジネススクールで教えている友人のベンチャー・キャピタリストも、同じような変化を感じると言う。自分の授業を受ける若い男性が、目立って変わってきたと感じていた。(中略)

2013年にピュー研究所が行った最近の子育てについての調査にも、この傾向は表れている。仕事と家庭を両立させようとストレスに苦しむ父親の数は、母親とほぼ同数だった。18歳未満の子供を持つ父親の半分と、母親の56パーセントが「仕事と家庭の責任を両立させること」が難しいと回答していた。しかも、「家庭に入って子育てをしたいが、収入が必要なのでそれができない」と答えた父親の割合は、母親とまったく同じだった。

つまり、女性であれ男性であれ、仕事と家庭の両方の責任を持つ人たちは、キャリアの面で妥協を強いられ、代償を支払っているということだ。だからこれまで「女性の問題」とされてきたこの課題を「育児の問題」として見直すことで、視野が広がり、本当に取り組まなければならないことにきちんと目を向けることができる。その本当の問題とは、「育児や介護の価値が過小評価されている」ということなのだ。

「誰がそれをやるか」は関係ない。

*一部改変|翻訳:関美和

(『仕事と家庭は両立できない?』より抜粋)

書籍データ

仕事と家庭は両立できない?
概要育児や介護(ケア)は"女性の問題"なのだろうか? 問われているのは、ケアの価値を低く見る社会の「仕事観」そのもののではないだろうか? 〈世界の頭脳100〉に選ばれ、世界的ベストセラー『リーン・イン』のサンドバーグの論敵としても注目される著者が、仕事と家庭のあいだで悩むすべての人々に贈る〈21世紀のまったく新しい働き方+生き方〉の書。
タイトル仕事と家庭は両立できない?
サブタイトル「女性が輝く社会」のウソとホント
著者名アン=マリー・スローター
出版社NTT出版
刊行日2017年8月
判型四六判並製
頁数352頁
定価2400円+税
ISBN978-4-7571-2362-5