ディスコルシ 背表紙
社会の知恵

戦争に勝ち、国を富ませる方法

ローマ人がその国土を拡げるにあたって、どのような方法を用いたかは、すでに論じた。そこで、ここでは彼らが実戦にあたってどんな方法をとったかを論じてみたい。ローマ人がやった行動のどれを取り上げてみても、彼らが繁栄の絶頂に至る険しい道をなだらかにするために、たいていの他の国が用いたありふれた方法には目もくれずに、どれほど用心深く配慮して事を運んでいったか、よくわかるのである。

政策的な配慮による場合でも、また野心にかられた場合でも、戦争の目的は征服することである。また征服したその土地を確保してこれを維持し、繁栄に導き、征服地も本国もともに豊かにして貧しくならぬように手を打つことである。したがって、征服するにも支配をするにも、浪費をつつしんで、万事公共の福祉を第一に考えねばならない。これらすべてを実現しようとする人は、ローマ人のやった様式手段を用いねばならぬ。

それによれば、戦争に先立って第一に心することは、フランス人が言うように、戦争は短期間のうちに大軍を密集して圧倒せよということだ。このように事を運ぶためには、ローマ人はラティウム人、サムニウム人、エトルスキ人を敵にまわしたどの戦争でも、大軍を戦線に投入してきわめて短期間のうちに片をつけていた。

ローマが建国のはじめから、ウェイイの包囲攻撃に至るまで、彼らが行なったすべての戦争を検討してみると、どれもこれも六日、十日、二十日間で終結していることがわかる。それというのも、ローマ人が用いた常套手段が次のようなものであったからだ。つまり、戦争が勃発するやいなや、ローマ人は軍隊を派兵して敵軍と激突させて、ただちに決戦を挑んだ。ローマ軍が勝利すると、敵はその周辺の土地まで完膚(かんぷ)なきまでに荒らされるのを恐れて降参する。そこでローマ人は罰としてその国の一部を取り上げて、それをローマ人の私有地とするか、そこを屯田兵(とんでんへい)の手に委ねることとした。

しかも、この土地は被征服国と国境を隔てて相対しているので、ローマ辺境の守りを固めるのに役立つことにもなった。つまり、この土地を受け取った屯田兵にとっても大きな利益をもたらし、ローマ国家の側にしても、費用を使わずに国境防備ができることで同じように得るところが大きかったのである。

これほど確実で強力で、経済的な方策がまたとあったであろうか。それというのも、敵側が戦いをしかけてこないなら、屯田兵だけで国境の固めは万全である。ところが敵が大軍を繰り出して、この植民地を圧倒することがあっても、その時はローマ人も本国から大軍を派遣して、これと決戦を交える。この戦いを勝利に導けば、より苛酷な条件を敵に吞ませて、本国に引き揚げればよい。

このようにして、ローマ人は日一日とその名声を敵よりも高めてゆくとともに、それにつれて国内では国力を一歩一歩と充実させていった。

以上述べてきたようなやり方は、ローマ人がウェイイ包囲戦後に戦争方法を改めるまで踏襲されていた。このウェイイ攻略戦では、この長期化に対処できるように、ローマ人は兵士に俸給を支払う制度を設けた。それまでは戦争は短期間に終わっていたので、その必要もなかったために、給料が支払われたためしはなかった。ローマ人が軍隊に給料を支払うことに同意するようになると、そのおかげで、これまでよりさらに長期化した戦争ができるようになった。さらに、遠隔の地で戦う時にも、長期にわたってその戦線に軍隊を駐屯させておくことが可能になった。しかしながらローマ人は、戦争を時と場合に応じてできるだけ短期間に終わらせる、という本来の方針を決して変えようとはしなかった。また、征服地に屯田兵を送り込むやり方も変えなかった。

さて、ローマに戦争を短期間に片づけようとする傾向がはじめからあったのは、彼らの本来の方針だったことの他に、執政官の野心も手伝っていた。執政官の任期は一カ年、しかもそのうち六カ月は前線の軍営にいなければならなかった。そのため、早く戦争を終結させて、ローマに凱旋することを熱望していた。

一方、征服地に屯田兵を送り込むやり方は、それがもたらす大きな効果と利益のおかげで存続していた。けれども戦利品の分配方法には、いくらか変化が見られるようになった。というのは、はじめの頃のように略奪勝手しだいということがなくなってきたからだ。つまり、兵士たちに給料が支払われるようになると、それほど略奪の必要もなくなったからである。また戦利品が莫大な量に達したので、国庫はそれで利益を受けることが良策だと考えて、都市からの税金によって、事業の出費に充当しなくてもよくなった。

この方法を採るようになると、ローマの国庫収入は瞬くうちに激増したのであった。

したがって右に述べてきたように、戦利品の処置と植民地の建設というローマ人の採用した二つの方法は、戦争によってローマを富ませるものとなった。ところが、その同じことでも、他の考えの浅い君主や共和国の手にかかると、〔反対に〕貧窮化の原因ともなる。このような〔戦争によって利益をあげるという〕いき方は、極端になっていった。ある執政官(コンスル)などは、夥しい金銀、その他あらゆる物品を戦利品として国庫に納入しなければ、凱旋の栄誉を受ける資格がない、と考えていたほどであった。

これまで説明してきたように、ローマ人は右に述べた方法により、また戦争を短期間で終結させることによって、一方では、何度も戦争をしかけて敵を弱らせ、これを撃破してその領土に侵入し、自国に有利なような休戦条件をもって、絶えずローマを富まし、国力を増強していったのである。

(『ディスコルシ』より抜粋)

書籍データ

概要『君主論』をしのぐ、マキァヴェッリ渾身の大著。フランス、スペイン、イタリア、ドイツ、神聖ローマ帝国など、群雄が割拠し、戦いに明け暮れていたルネッサンス期。権謀術数が飛び交う中、官僚として活躍したマキァヴェッリは、祖国が生き残る方法を模索し続け、古代ローマ史にその答えを求めた。不利な状況での戦い方、敵対する勢力を効果的に漬す方法、同盟の有利な結び方、新兵器への対処方法、陰謀の防ぎ方と成功のさせ方、そして、最強の国家体制…。権力がぶつかり合う壮大な歴史ドラマの中で磨き上げられた、パワー・ポリティクス永遠の教科書。
タイトルディスコルシ
サブタイトル「ローマ史」論
著者名ニッコロ・マキァヴェッリ
出版社筑摩書房
刊行日2011年3月10日
判型文庫版
頁数768
定価本体1,800円+税
ISBN978-4-480-09352-3