発声と身体のレッスン 増補新版 背表紙
身体の知恵

声の筋トレで感情豊かに! 5つのポイント

感情を変えると、声は変わります。「声はどうしたら変わるの?」という言葉を、イライラして怒りながら言ったり、わくわくして喜びながら言ったりすれば、言い方は変わります。

ここで、「感情」ではなく、「こえ」の何を変えれば、「声はどうしたら変わるの?」という言葉の言い方は変わるでしょうか?

ワークショップでは、ここでじっくり考えてもらうのですが、先に答えを言います(5分は考えてください)。

まず、「大きさ」です。「大きさ」を変えれば、「声はどうしたら変わるの?」という言い方は変わります。読んだ後、「なーんだ」と思わないように。あなたは、ふだん、何種類の「こえ」の「大きさ」を使い分けていますか? 無自覚に、なんとなくしゃべっていませんか? 話す内容ではなく、声の「大きさ」が場に不釣り合いで、周りから浮いている人は知りませんか? それは、「大きさ」に無自覚な例です。

自分が出せる一番大きな声で「声はどうしたら変わるの?」と言ってみましょう。声帯に気をつけてください。では、一番小さな声で「声はどうしたら変わるの?」と言ってみましょう。今出した一番大きい声と一番小さい声の間で、あなたはふだん、何種類の声の大きさを使い分けていますか? では、あなたがふだん出している声の「大きさ」で言ってみましょう。他には、ありませんか? さて、何種類の声ですか?

次は、「高さ」です。「高さ」を変えれば、「声はどうしたら変わるの?」という言い方は変わります。あなたの一番高い声と一番低い声で言ってみてください。

では、その一番高い声と一番低い声の間で、あなたは、ふだん、何種類の「高さ」を使い分けていますか? 「こえ」に自覚のない人は、一種類、多くて二種類です。

次は「速さ」です。「速さ」を変えれば、言い方は変わります。「声はどうしたら変わるの?」という言葉を、できるだけ速く、三回、子音が溶けないように、明瞭な声で言ってください。今度は、「こーえーはーどーしーたーらーかーわーるーのー」と一息で、できるだけゆっくり言ってみてください。さあ、あなたがふだん使っている言葉の速さはどれぐらいですか?

次は「間」です。「速さ」と「間」をあわせて、テンポとかリズムと言います。

どうして、「速さ」と「間」を別々にしたかというと、言葉が速い人は、自動的に「間」も短くなりがちだからです。ですが、台詞(言葉)は速いけど、間は長いという言い方は存在しないのでしょうか? 「なんでそんなことするのよっ……信じられないわっ……どういうことよっ……」と言葉は速いのに、間は長いという言い方に、ふさわしい感情やイメージがあるはずです。逆もありますね。言葉のひとつひとつはゆっくりなのに、間が極端に短いという言い方です。いろいろ試してみてください。

最後が「音色(音質)」です。あなたはどれぐらいの音色(音質)を持っていますか? あなたは知らないかもしれませんが、田中角栄という政治家の人は、ダミ声が特徴でした。僕はあの声が、「庶民的」だとか「エネルギッシュ」という印象を与えたのだと思っています。もし、田中角栄という人が、NHKのアナウンサーのような声だったら、総理大臣になるようなことはなかったと思っています。あなたはどんな音色を持っていますか? 「鼻声」「アニメ声」「バスガイトのような声」「おすもうさんの声」「アニメの女の子のような声」「応援団のような声」「ドラえもんのような声」まだまだあります。

残念ながら、たいていの人は、一色です。なんともったいない。あなたの「からだ」の共鳴の仕方やイメージによって、あなたは何十、何百、何千、何万、という音色を持てるはずなのです。モノマネをうまくなれということではありません。似てなくていいのです。「クレヨンしんちゃん」のような声を出してみようと思った時、似てないほうがいいでしょう。それより、あなたは、今まで出したこともない「こえ」を出したということです。その「こえ」にふさわしい感情やイメージはありませんか? 逆に、そういう「こえ」を出したことで、ある感情やイメージがわいてきませんか?

駆け足で急ぎましたが、声の要素は、(1)大きさ、(2)高さ、(3)速さ、(4)間、(5)音色です。

これらを、日常から意識していると、あなたの「こえ」は飛躍的に素敵になります。台詞だけを考えるのではありません。日常から、「こえ」の表現が豊かになると、自然に台詞も豊かになるのです。そして、「こえ」がバラエティーに富んでいて豊かな人は、じつは、表情も感情も豊かなのです。
つまり、「感情が豊かな人になりましょう」と思うのではなく、「豊かな声を持ちましょう」と、技術論的に考えるのです。そうすれば、自然に、感情も豊かになるのです。だって感情が単調なのに、声の豊かな人はいないのです。

教師や政治家、サラリーマンの人も、この5つの視点から、自分の「こえ」をもう一度、チェックしてみてください。「話す内容」にだけ目がいって、この基本的な5つをおろそかにしていませんか?

まったく同じ内容でも、この5つが豊かになると、その話は面白く、素敵に、魅力的になります。「落語」は、話す内容が同じなのに、面白いものとつまらないものにはっきりと分かれるという具体的な例です。

帰ってくるところはやっぱり同じです。「あなたの感情やイメージをちゃんと表現する声を持つ」ということです。逆に言えば、「豊かな声を持てば、あなたの感情やイメージは豊かになる」ということなのです。

(『発声と身体のレッスン 増補新版』より抜粋)

書籍データ

発声と身体のレッスン 増補新版 表紙
概要俳優、声優、歌手、アナウンサーから、教師や営業マンまで! 「人前で話す」すべての人のためのバイブル。大好評ロングセラーに寄せられた反響をもとに、Q&Aを巻末増補した完全版。
タイトル発声と身体のレッスン 増補新版
サブタイトル魅力的な「こえ」と「からだ」を作るために
著者名鴻上尚史
出版社白水社
刊行日2012年3月24日
判型四六判
頁数320頁
定価本体価格1800円+税
ISBN978-4560082003