社会の知恵

〈令和〉への改元を前に、〈平成〉は〈昭和〉から何を学んだのかを考える

新たな元号〈令和〉も発表され、いよいよ平成が終わることとなる。平成は後世どのように総括されるのだろうか? 昭和との因果関係をふまえ、平成という時代の深層を読み、ふたつの時代のキーワードを検証する。

昭和と平成、それぞれのキーワード

今、改めて〈平成〉は〈昭和〉から何を学びとっているのか、それを整理しておくことにしたい。そのためにある手法を用いて昭和と平成を考えてみる。まずは昭和論なのだが、昭和という時代には三つのキーワードがある。その三つとは次のようなものである。

(一)天皇(戦前の神格化天皇、戦後の人間天皇、あるいは象徴天皇)
(二)戦争(戦前の軍事主導体制、戦後の非軍事体制)
(三)臣民(戦前の一君万民主義下の臣民、戦後の市民的権利をもつ市民)

昭和とはいずれにしてもこの三つのキーワードで語りつくすことができる。「戦後」という語には、この三つの「人間天皇」「非軍事体制」「市民」を仮託することができる。いうまでもなく昭和から平成というときの平成、あるいは元号という“句読点”を打ってみて前段と後段の後段を彩っているかどうかは、この三つのイメージが継承されているか否かを確かめる、それが平成論を考えるときの骨格のひとつである。このことを検証していくのが本稿の狙いでもあるのだ。

「人間天皇」「非軍事体制」、そして「市民」というキーワードは引き継がれている。とにかく「今」までは、との意味でいうのだが……。というのも、平成の終わりになって、この三つのキーワードは少しずつ崩れ始めているといっていいのではないか。とくに「非軍事体制」は間違いなく危殆に瀕していると断言していいように思う。

では平成の三つのキーワードは何だろうか。むろん昭和からの、とくに「戦後」の良質のキーワードは引き継がれている。これを前提に考えていくことにするが、私は三つのキーワードは次のようなものだと考える。そしてそれぞれのキーワードにはやはり二つの役割が課せられているように思うのである。

(一)天皇(人間天皇と戦争の清算の役)
(二)政治(選挙制度の改革と議員の劣化)
(三)災害(天災と人災)

平成論を展開するときには、新たにこの三つのキーワードを検証する必要がある。すると平成という時代が具体的に浮き彫りになってくる。

天皇が示した自らの役割

天皇は即位後の朝見の儀を終えたあとに「おことば」を述べられた。平成元年一月九日のことである。平成の天皇が初めて国民に心境を明かした「おことば」である。その全文は四百字余であるが、あえて引用しておきたい。平成という時代をどのような思いで継いでいくかを明確にしたのであり、ここには代替わりの精神が凝縮されているといっていいからである。

「大行天皇(保阪注・昭和天皇のこと)の崩御は、誠に哀痛の極みでありますが、日本国憲法及び皇室典範の定めるところにより、ここに、皇位を継承しました。深い悲しみのうちにあって、身に負った大任を思い、心自ら粛然たるを覚えます。

顧みれば、大行天皇には、御在位六十有余年、ひたすら世界の平和と国民の幸福を祈念され、激動の時代にあって、常に国民とともに幾多の苦難を乗り越えられ、今日、我が国は国民生活の安定と繁栄を実現し、平和国家として国際社会に名誉ある地位を占めるに至りました。

ここに、皇位を継承するに当たり、大行天皇の御遺徳に深く思いをいたし、いかなるときも国民とともにあることを念願された御心を心としつつ、皆さんとともに日本国憲法を守り、これに従って責務を果たすことを誓い、国運の一層の進展と世界の平和、人類福祉の増進を切に希望してやみません」(下線・保阪)

天皇はこの「おことば」の中に、ご自身の天皇としての立場と意思、それに時代と向き合う姿を明確にしている。より具体的に指摘するならば、前述の平成の三つのキーワードについて、天皇の二つの役割を説明しているとも考えられるのである。昭和天皇の遺志を継ぐというのは、「人間天皇」の道を歩むということであり、ここでは触れていないにせよ、「象徴天皇」としての道筋をつけたいとの覚悟が読める。そして戦争の清算(それが追悼と慰霊になるわけだが)をご自身の立場で行うとのメッセージが含まれているように私には思える。

いうまでもなく現在の憲法は、戦争の清算といった精神を含んでいる。昭和という時代を語るときのキーワードにあえて「戦争」といった語を含ませたのだが、この語には戦後は非軍事といった語をかぶせることが可能だ。非軍事は、具体的には現在の憲法を指している。したがって「おことば」の中の下線の部分は、本来なら「皆さんとともに日本国憲法に従って責務を果たす」でいいことになり、あえて「日本国憲法を守り、これに従って」とする必要はないかと思える。

この一節によって実は平成の天皇は、戦争の清算の意味をここに盛りこんだのではなかったか。それが平成のある時期から始まった、海外での激戦地を訪ねての追悼と慰霊の旅になったと考えられる。この追悼と慰霊の旅は、どうあれ「昭和」という時代の戦争を「平成」という時代にあって解体していく歴史的な意味をもっているように、私には思えてならないのだ。

平成のキーワードとしての「天皇」のあり方は、ここではこうした点のみに限って触れておくが、多くの重要な視点が盛りこまれていることだけは私たちは理解しておかなければならないように思う。

(『平成史』より抜粋)

書籍データ

平成史 表紙
概要平成は後世どのように総括されるか。政治の劣化、オウム真理教事件、天災と人災……。その始まりでバブル崩壊に直面し、長く続く経済停滞はこの時代に暗い影を落とす。だが、「停滞」や「閉塞」といった言葉だけで、平成は語られるものなのだろうか。昭和との因果関係をふまえ、平成という時代の深層を読む。
タイトル平成史
著者名保阪正康
出版社平凡社
刊行日2019年3月18日
判型新書
頁数231
定価本体価格820円+税
ISBN978-4582859089