常世の花 石牟礼道子 背表紙
こころの知恵

石牟礼道子の文学とは

『苦海浄土』の作家・石牟礼道子さんがこの世を去ってから1年になる。水俣病患者の苦しみを見つめ、歴史の深みから言葉をくみ上げた石牟礼さんと親交のあった批評家・随想家が追悼する。世界文学とも評される石牟礼文学の真髄とは何か。

この数年、石牟礼さんの体調がよいときを見計らって、雑談をしに彼女の住まいを訪れていた。メモや録音をするでもなく、ただ漫然と話を聞く。

水俣での幼き日のこと、『苦海浄土 わが水俣病』の執筆をめぐって、敬愛していた白川静のこと、足尾銅山鉱毒事件で民衆の救済を訴えた田中正造について、彼女は秘めた宝珠に日の光を当てるように穏やかに語った。

石牟礼さんの言葉は、誰にも似ていない。特異の律動を有している。それがいわゆる学習の結果なら、あの無常をたたえた響きが生まれることはなかっただろう。

彼女は類を見ない、優れた歴史感覚の持ち主だった。言葉を歴史の奥底からくみ上げる稀なる才能に恵まれていた。

はじめてのアメリカ音楽史 背表紙
こころの知恵

エルヴィス・プレスリーに人はなぜ引きつけられるのか

「キング・オブ・ロックンロール」エルヴィス・プレスリー。全世界に衝撃を与えた彼の音楽やダンスの何が人を引きつけたのか。アメリカ南部からやってきた研究者バーダマン氏と評論家の里中氏の対談をお届けします。

エルヴィス登場

里中哲彦(以下、里中) 1950年、サム・フィリップスという男が、北部の都市へ旅立ってしまうブルーズマンやリズム&ブルーズのミュージシャンをつなぎとめておくため、地元メンフィスに、プロとして売り出すための録音をするサン・レコード・カンパニーと、素人向けの記念録音を専門とするメンフィス・レコーディング・サーヴィスを設立します。

ジェームス・M・バーダマン(以下、バーダマン) 彼は白人だったけど、黒人にも白人にも平等にレコーディングのチャンスを与えようとした。アイザック・ヘイズは「サムは、よい音楽をつくりだしさえすれば、肌の色など気にしなかった」と語っている。

里中 サム・フィリップスの傘下には、B・B・キング、ハウリン・ウルフ、ルーファス・トーマス、アイク・ターナーら、錚々たるミュージシャンがいた。しかし彼は、黒人のマーケットが狭いこともよく知っていた。そこで、白人のティーンエイジャーの心に訴えかける音楽を探し始めます。

居酒屋甲子園の奇跡 背表紙
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若者たちの働き方改革

「居酒屋甲子園」というイベントは、若き居酒屋経営者が業界の活性化と地位向上のために始めたものだ。その活動に触発され、他業界へも「甲子園」が広がっている。みずから働き方改革に挑む彼らの原動力に迫ります。

他業界への波及

「居酒屋甲子園をきっかけに始まった他業界の甲子園は、うちの会社が関係しているものでも10はある、その他を入れたら20くらいあるんじゃないでしょうか」

居酒屋甲子園の決勝大会の運営を第1回から手がけているイベントプロデューサー、安藤慎平は言う。彼が代表を務めるコムネットは、もともと企業イベントの企画運営を請け負う会社だ。官公庁から外資系企業までクライアントの幅は広いが、居酒屋甲子園を手がけて以来、「うちの業界でもあれをやりたい」という相談が引きも切らず来るようになった。

「介護甲子園、歯科甲子園に、温浴施設のおふろ甲子園。それから、会計事務所甲子園、理美容道甲子園、建設職人甲子園……エステグランプリにネイルグランプリといった必ずしも甲子園が入らないところもありますが、同じ趣旨のイベントです。うちではありませんが、ぱちんこ情熱リーグ、旅館甲子園、トラックドライバー甲子園もありますよ」

無敵のハンディキャップ 背表紙
こころの知恵

障害者について思考停止状態にある人に衝撃を与えたい

リング上で障害のある身体をさらけ出して闘い、世間のド肝を抜いた障害者プロレス団体「ドッグレッグス」、その誕生秘話。

1989年の終わり頃、私と慎太郎は新しいボランティアグループを作るために動き始めていた。まだ、頭の中の黒い塊は、はっきりとした形に定まってはいなかったが、やるしかなかった。

ボランティア業界に長く関わっている内に、ボランティアグループの問題点もだいぶ見えてくるようになった。自分たちの安息の場所にするために、閉鎖的になって健常者たちを遠ざけていること。障害者と健常者の交流という謳い文句を掲げていても、表面的な関わりだけで終わっていること。そんなボランティアグループの在り方を批判しているうちに、すっかり私はボランティア業界の嫌われ者となっていた。特に発表会に関しては批判が過ぎて、「そこまで言うなら自分でやってみろ」とまで言われてしまった。単純な反発心からボランティアグループ作りに向かった気持ちもあるが、見切り発車になるとわかっていながら踏み切ったのは、和室での慎太郎の一件があったからだ。あの日、宙をさまようような慎太郎の目を見たとき、放ってはおけないと思った。それには、一緒のグループで活動するのが一番よかった。

音楽放浪記 日本之巻 背表紙
社会の知恵

アジアには愛が溢れていると岡倉天心は云ったけれど……

西洋音楽とは西欧近代の理性主義と進歩主義の写し絵である。とりわけベートーヴェン以後は、神の領域を超ようと、意志的に、前進的に、音を組みあげ、逆に虚無的に挫折したりする作品を量産してきた。他方、アジアの文化芸術はどうか。その理想像は、神と人、真理と現実、梵と我が一体になり、絶対普遍的なものとの魂がじかに触れ合いつづけることにある──。音楽から西欧とアジアの相克を読み解く。

日本的現代音楽とはズルズルベッタリである

「音響が執拗なまでに糊塗された単一方向的な西村作品」「余白なく塗り込まれた極彩色絵巻のような西村作品」──どちらも、『レコード芸術』2007年12月号に載った、西村朗の新しいディスクへの長木誠司氏の批評から。そこで指摘されているのは、まず響きが度外れて厚いということ。それからもうひとつ、一定の音のイメージがベッタリと引きのばされる音楽だということだろう。

そのとおりだと思う。しかし、似たような音が続くというほうの話は、なにも西村にかぎったことではなさそうだ。厚いか薄いか。力まかせか思わせぶりか。そういった差はあるにせよ、武満徹も細川俊夫も石井眞木も佐藤聰明も、バターナイフでレバーペーストをのばすような、もしくは瞑想的境地がひたすら持続するような音楽でこそ映える。

ビジネスパーソンのための一目おかれる酒選び 背表紙
Created with Sketch. 自然の知恵

吟醸酒は、お燗をするともったいないと思っていませんか?

吟醸酒は、その作られ方によっては、いわゆる「燗上がり」がおこり、冷酒では味わえない美味しさが味わえます。では、どのようにして燗上がりする吟醸酒を見分けるのか? その答えは、以下の記事に!

「大将、これお燗にして」

「ダメだよ、お客さん。これは大吟醸だから冷やして飲まなくちゃ」

「そうなの? 俺は燗酒が飲みたいんだけど」

「じゃ、こっちの純米酒にしてください」

「それじゃなくて、この大吟醸が飲みたいんだよ」

「ダメダメ、ウチはね、大吟醸はお燗にしませんから!」

こういう押し問答、よくありますね。とくに酒のウンチクたっぷりの日本酒専門店に多いような気がします。このあとに続くお店の言い分は、だいたい次のようなものです。

「吟醸酒はお燗にすると香りが飛んでしまう」

「純米酒や本醸造酒こそ燗酒にふさわしい」

「大吟醸をお燗にするなんてもったいない」

文化空間のなかのサーカス 背表紙
こころの知恵

「この世界」を組み替えるためのアート

サーカスのどのジャンルにも不可欠なもの、それは「動的バランス」であり、その最たる例が綱渡りだ。とはいえ、「動的バランス」が欠かせないのはサーカスだけではない。文化全体あるいは社会全体にとっても同様である。著者は、サーカスこそが文化や社会にとって「動的バランス」の最高のモデルたりうることを強調する。

サーカス的な演し物やジャンルの起源と本質は、運動と変化の諸過程を全体として意味づけることや、文化における動的バランスを人間が認識するようになったことと、緊密にむすびついている。なにしろ、動的バランスというものは、サーカス芸術の源であるにとどまらない。文化の種々の要素間の動的バランスは、文化の存在と発達の形式となっており、文化面での新たな試みを促してきた。文化は、宇宙に似て、おそらく「爆発」の結果生じるものであろうが、規則的に機能しうるのは、古代の思想家たちが「天のものと地のものの永遠の可変的バランス」と定義づけている、動的バランスという形式においてのみである。しかも、文化パラダイムの最適の交替とはバランスどうしの交替であることを認めるならば、バランスの力学はたんに思考上の比喩にとどまらない。バランスの破壊は、文化の対立へと至り、あるいは錯綜した場合は破局、戦争やテロにも至りかねない。

これに関連して思い起こすべきは、1974年8月7日にニューヨークで起こった有名な象徴的出来事である。この日、世界貿易センターの二つのタワー間にぴんと張られたワイヤーの上を、安全装置をまったくつけずに、綱渡り芸人フィリップ・プティが伝説的な綱渡りを敢行した。フィリップ・プティ当人にとっては、決死物は、月並みな現実にたいする勝利であり、ツイン・スカイスクレイパーの建設時からあこがれていた長年の夢の具現化となった。これにたいして、幾年も経た2009年に撮られたジェームズ・マーシュのドキュメンタリー映画『マン・オン・ワイヤー』では、ワイヤー上の運動は、綱渡り芸人が動的バランスをうちたてるという象徴的行為として示されている。世界で「もっともクリエイティヴな犯罪」と当時称されたものをなしとげた綱渡り芸人をめぐって映画をつくらねばという考えは、おそらく、映画監督の文化・政治問題にたいする関心とも、さらには2001年9月11日というはじまったばかりの新世紀の、もっとも破壊的ともいえる出来事にたいする関心ともむすびついていた。この日、世界貿易センターのタワーがテロリストによって壊滅されたのである。

橋本健二 背表紙
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離婚と死別がアンダークラスへの入口だった

「アンダークラス」という言葉を知っていますか? 非正規で働く人の数は増加し続け、それは一部の人たちで済まされない数になっている。彼らの存在を「アンダークラス」と名付け、その実態を明らかにした。そのなかでも特徴的なのが、女性のアンダークラスである。そうなったきっかけはどこになるのか? 彼女たちの生い立ちはどのようなものなのか? 綿密なデータをもとにして、その驚くべき数字を明らかにする。

非正規女性の人生をデータからみる

930万人。非正規労働者のうち、パート主婦と、非常勤の役員、管理職、資格や技能をもった専門職を除いた人々の数である。これは就労人口の15%ほどを占める。この階級に属する人々を「アンダークラス」とよぼう。そのなかでも、本稿では、アンダークラスの女性たちが、これまでどのような人生を送ってきたのかをみていくことにする。

SSM調査では、これまでに就いたすべての職業を、無職の期間を含めて尋ねている。しかも結婚したことのある人については結婚したときの年齢、そして離別・死別したことのある人については、そのときの年齢を尋ねている。だから質問紙による調査でありながら、回答者のこれまでの生活歴をかなり詳しく知ることができる。生活歴は配偶関係、つまり未婚・離別・死別のいずれであるかによって大きく異なるはずだから、区別してみていこう。

民主主義を直感するために 背表紙
社会の知恵

いったいこの基地は誰を幸せにするのだろうか?

沖縄民意の反対を押し切り土砂投入が強行された辺野古。政治的な問題を考える時、最初にある素直な直感はとても大切だ。「これは何かおかしい」という感覚が得られたならば、そこからは「なぜこうなっているのか?」という問いかけが生じ得る。哲学研究者が2015年に辺野古を見て歩いて得た直感を伝えるレポート、その後編。

(中編の記事はこちら

マイクを使っての様々な報告や話が一通り行われると、何やら人々が立ち上がり、動き始めた。どうやら皆で道路を横断し、ゲート前に直接に座り込みにいくらしい。

さて、この後始まったゲート直前での抗議行動は、実に興味深いものであった。ここには、政治を考える上での理論的な問題が見出されるように思われる。当日の雰囲気をなるべく忠実に伝えられるよう努力したい。

道路を渡った後、何が始まるのか私にはすぐには分からなかった。だが、おもむろに人々が二列になり歩き始めた。人数は一三〇人ほどだろうか。二列になって歩行する人々は、約二〇メートルの長さのゲートの端の前から出発して、もう一方の端の前で折れ曲がり、歩道を行ったり来たりする。こうして、歩道上を行進する二列の人々の輪が出来上がった。

大政翼賛会のメディアミックス 背表紙
社会の知恵

「素人」が「投稿」し、自ら動員される参加型ファシズム

私たちは誰に「表現させられて」いるのか。

「翼賛一家」というまんがが、戦時下にあった。昭和十五年末から、多くの新聞、雑誌に連載され、単行本もいくつか出た。レコード化、ラジオドラマ化、小説化などもされた。これは今のことばで言えばメディアミックス作品である。

本書はこの「翼賛一家」のメディアミックスについて考えるものである。(中略)

「翼賛一家」が戦時下における政治的動員の手段として意図され、仕掛けられた「メディアミックス」であった点は本書で検証していくが、それまでの多メディア展開と異なる点が大きくいって三つある。